渡辺明さんという将棋棋士がいらっしゃいます。
タイトル通算獲得数は歴代4位ですから、めちゃくちゃ強い人です。
以下は、その渡辺さんが書いた文章です。
『はっきり言います。僕は将棋の天才です。
本当に冗談抜きで、今はそう思っているんです。
羽生さんと比べたら、そこまででもないですが(笑)。
初めて竜王になったころ、僕はこう思っていました。
「自分が竜王になれたのは、誰よりも努力したからだ。
誰だって努力すればプロになってタイトルくらい取れる。
他の人たちは、全然努力をしていない」
自分よりも弱い人たちに対して、
心の中で「真面目にやらなかった人」とレッテルを貼って馬鹿にしていたんです。
だけど、息子に将棋を教えるようになって、自分の間違いに気付きました。
昔の自分に簡単にできたことが、息子は全然できないんです。
実は、子供に将棋を教えるという経験が
それまで一度もなかったので、本当に驚きました。
「え?なんでこんなことが分からないの?」って。
それでやっと理解しました。「あぁ、自分には将棋の才能があったんだ」と。
もちろん、たくさん努力もしましたよ。だけど、それだけではなかった。
将棋の神様が与えてくれた才能があったからここまで来れたということが、
ようやく分かったんです。
誰でも努力を続ければ、将棋は確実に上達していくと思います。
そして、トッププロはみんな努力しています。
それは事実です。だけど、上達スピードは人それぞれ。
一生努力を続けてもプロレベルになれない人もいるということに、
僕はこのとき初めて気付きました。
みんな努力していないと決め付けて馬鹿にしていた昔の自分は、
我ながら最低の人間です。』
渡辺さんの書いた文章は、この後も続きます。
息子さんは、サッカーをやっているみたいです。
渡辺さんのお子さんは、ひょっとしたら、
棋士になるのに必要な、何らかの遺伝的な素養を持って生まれているかもしれない。
後天的な環境も、よそのご家庭より整っていたかもしれない。
さらには歴代4位の棋士から将棋を教われるという超英才教育。
親から見ても他人から見ても、そう思われていたことでしょう。
しかし、それら全てを踏まえた上で、この渡辺さんの文章からわかることは、
親と子どもは、血が繋がっていても別の人間で、得意不得意も好き嫌いも違う、
という当たり前のことだったのだと思います。