久しぶりに髪を切りに行った。
美容室というところは、実に不思議な場所である。
髪を切ってもらっているうちに、なぜか地域の情報が集まる。
「そういえばね、センター北にもセンター南にもロピアあるじゃない?」
「あるある」
「その間にも、またロピアできるらしいわよ」
「えー!また?」
「しかも、元ダイエーのところ」
「え?そしたらイオンじゃないの?」
「私もそう思ってたのよ。でもロピアなんですって」
「へぇー!」
髪を切りながら、新しいロピアの話を聞く。
美容師さんとお客さんの会話かと思ったら、いつしか隣のお客さんも参加している。
「そういえば、フードコートのクレープ屋さん、なくなるらしいわよ」
「え、そうなの?」
「あと、花○うどんも」
「うどん屋さんって、よくなくなるわねぇ」
「そうなのよ。人、入ってるように見えるのにねぇ」
「なんでだろうね?」
「でも今、空調設備の点検で、フードコート全部休みよ」
「そうなの?」
……。
私は一切、口を開いていない。勢いに呑まれて、ただ聞いている。
すると話題が、突然変わった。
「そうそう。知ってる?今年から中学校のお弁当、変わったじゃない?」
「ああ、ハマ弁?」
「そう、それ。あれ、評判よくないのよ」
「そうなの?」
「試食会ではちゃんと温かいのに、実際は、まだほとんど凍ってるんですって」
「えー!」
「うちの子なんてね、蓋だけ開けて、中身を確認して、また閉めるんですって」
「食べないの?」
「食べないのよ」
「じゃあ、お昼どうしてるの?」
「食べない」
「えっ」
「部活が終わって帰ってくるのが六時くらいで、そこからお昼食べて、すぐ夕飯」
「かわいそうじゃない!」
「そうなのよ!」
「育ち盛りなのに!」
「そうよ!」
声もどんどん大きくなっていく。
私は髪を切ってもらっている。ただそれだけである。
「もうね、これ変えるって公約出してる人がいたら、私、迷わずその人に投票するわ」
「あはは!じゃぁ私も!」
「だから、今はもう中学受験した方がいいわよ!」
「確かに!」
……。
私はまだ一切、口を開いていない。
そして、最終的に私は、
「もうね、今は絶対中学受験した方がいいわよ!」
「やっぱり食育って大事だと思うの!」
「育ち盛りの中学生がお昼食べられないなんて可哀想じゃない!」
「ね、今は中学受験よ!」
と、中学受験の良さを、人生で初めて力説された。
美容室というところは、実に恐ろしい。
髪を切りに行っただけなのに、ロピアの出店情報を教えられ、
クレープ屋とうどん屋の閉店情報を聞かされ、地域の学校事情を知り、
最後には中学受験まで勧められる。
ちなみに私は、中学受験塾の人間である。
この方々はそれを知らない。
世の中、何が起こるかわからない。
まさか美容室で、「今は中学受験よ!」
と、中学受験塾の先生が説得されることになるとは思わなかった。
……髪は、ちゃんと短くなった。
