教えることの難しさ③

さて、そしてこの顔合わせの後、採用が決まったとする。
しかし、それで一安心というわけにはいかない。
むしろ、ここからが本当の指導の始まりなのだ。
すなわち、初回の指導は、言ってみれば、よそ行きの指導、
聴衆を惹きつけるためのパフォーマンスのようなものであって、
その指導を続けていっても、その子の力はたいして伸びない。

疲れ果てた子や、自信を失くしてしまっている子であれば、
しばらくその丁寧な指導を続けて、褒め続けることも必要だが、
その子が難しい学校を目指しているなら、それだけでは戦えない。
だから、誇張して言えば、2回目の指導からは丁寧になど教えない。

例えば、図形の問題で、1本補助線を引けば解ける問題があったとする。
その補助線をどこに引くか教えてしまえば、
その問題の答えを自分で出せるかもしれない。
だが、その問題の醍醐味は、どこに補助線を引くか考えることである。
何度もうまくいかないかもしれないが、それを試すところに意味がある。
図形を解けるようになるには、失敗もした方がいい。その試行錯誤を見守りながら、
適切なタイミングで、適切な量のアドバイスをする。
その匙加減が先生の腕の見せどころである。

 

同じ塾の同じクラスにいて、点数も偏差値も同じだったとしても、
その子その子で、得意不得意は違う。
同じ点数でも、図形で点数を稼いだ子もいれば、文章題で稼いだ子もいる。
また、ほとんど努力をしないでも点数を取れてしまう子もいれば、
精一杯努力した結果で点数を取っている子もいる。
男子と女子で違うこともあるし、目指す志望校で違うこともある。

 

目の前の1題の答えを出すことだけが目的なら、指導はそこまで難しくない。
だが、入試のとき、自力で合格に必要な点数を取れるように!と考えたら、
その子が解けなくて困っていても、手助けするのを我慢しなくてはならない。
目の前の1題のための指導なのか、先を見据えた指導なのか、
そういった違いである。

 

しかし、丁寧な指導の方がウケはいい。
それこそ、勉強に前向きとは言えない子に対してなら、
後はもう答えを書くだけくらいのところまで教えた方が、
「わかりやすかった!」と言うだろう。
だが、お分かりの通り、これでは自分で解けるようにはならない。