もっとおおらかでも

小学校3、4年生の時の担任の先生は、
僕の人生に、とても大きな影響を与えた男の先生だった。
その先生は、他になかなか類を見ない先生で、
その授業のほとんどが校外学習だった。
朝、登校して出席を取ったら、晴れている日は間違いなく、
ランドセルや教科書を教室に置いて、すぐに校外に出かけるのである。

ある時は、地域の梨農家へ行って、農家の人の話を聞き、取れたての梨をいただく。
またある時は、少し遠出して、牛を育てている農家へ行く。
そこでは、牛に餌をやり、牛小屋の掃除をし、最後に絞りたての牛乳をいただく。
特に行き先の決まっていないような時は、地域を流れる川に沿って、ひたすら歩く。
先生の話を聞きながらの時もあれば、友達とお喋りしているだけのこともあった。
そして、学校に戻ってからは、その日の感想や、考えたことを、
絵日記のような形で書いて、まとめていたように思う。

まぁ、実際は、算数や国語の授業もあったのだろう。
だが、鮮明な記憶として残っているのは、ほぼ毎日あった校外学習だけである。
同じクラスだった同級生に聞いても、その記憶しかないと言うので、
算数や国語の授業は、本当に少なかったのかもしれない。

ひょっとしたら、この校外学習のせいで、算数など、
主要教科の学習に支障が出て、困っていた子もいたかもしれない。
この先生が良い思い出になっているのは、
小学校の勉強で困ってなかった人だけなんじゃないの?
と言われると、そうなのかもしれないが、しかし、
小学校を卒業してウン十年経った今でも、同じクラスだったメンバーは、
あのときは楽しかった記憶しかないと声を揃えて言う。

学校は、「勉強するところ」「新しい知識を教わってくるところ」
という『常識』『当たり前』から外れているのもわかるし、
この先生が国の定めたルール(学習指導要領)に従っていたのか謎だけれど、
でも、あの当時、勉強をポジティブに捉えていなかったような同級生までもが、
3年生で勉強がわからなくなった!というような恨み言を口にすることなく、
あのときの学校は最高だった!と言うのは、紛れもない事実なのである。

 

賛否両論あると思う。
この先生のことを100%指示したいとか、そういうことでもない。
だけど、今の学校は、試験で「役に立つ」ことを詰め込み過ぎていて、
ちょいと盛りだくさん過ぎやしませんか?って、思うこともあるのです。
勉強は大事だけれど、みんながみんな、勉強を第一にするわけでもないし、
もっとおおらかでも…なんてことを思ったりもするのです。

少なくとも、あの当時、
同じクラスのメンバーは、毎日、今日はどこに行くんだろう?って、
ワクワクドキドキしながら学校に行っていた。学校に行くのが楽しみだった。

繰り返しになるが、僕の人生には、とても大きな影響を与えた先生だった。
その先生からの年賀状に
「スナフキンくんは、なんでも短い時間で器用にやれてしまうのが長所だけど、
それが短所でもある。何か一つのことに思いっきり打ち込んで欲しい。」
と書かれていた。
今思えば、3年生の子どもに送る文章かね?と思うけれど、
後々、言わんとするところを理解できてからは、自分にとって大切な言葉となっている。