まず昨年の日経新聞 (11月21日) の記事から一部を紹介したい。
6月の「聖光を語る会」で配付される
「中学入試問題資料」の「算数」のページには、次のようにある。
「小学校時代は算数のセンスがあって算数はよくできただろうと思われる子が、
中学以降の数学で振るわなくなることがあります。
この最大の原因は、自分のセンスだけに溺れて地道な労力を惜しんでしまうことです。
(中略)
粘り強くがんばることができる小学生が
『勉強してよかった』と思うような入試にしたいと考えています。」
実際、同校の算数の入試では、最終的な解答にいたるまでの過程で
幾重もの計算をしなければいけない問題や、
線分図やグラフを用いて状況を整理しながら解く必要のある問題などで、
思考過程そのものを記述させることが多い。
粘り強さと丁寧さを試しているのだ。
「最終的な解答が正しくても、あまりに作図がいい加減だったり、
言葉の表現で不適切だったりすれば減点しています」
と数学科の名塩隆史教諭。
逆に結論にたどりつかなかったとしても、正しい式や図を使い、
丁寧に粘り強く解いていることがわかれば部分点を与えるようにしているという。
問題
2けたの数を表示する機械Aがあり,
スイッチを入れると1秒ごとに次の規則で数字が表示されます。
(規則)
10の位は、1,2,3,4,5,6,7,8の順に1秒ごとに変わり、
8の後はまた1 に戻り、同じように変わります。
1の位は、1,2,3,4,5,6,7,8,9,0の順に1秒ごとに変わり、
0の後はまた1 に戻り、同じように変わります。
たとえば、スイッチを入れると1秒後に11、2秒後に22、3秒後に33が表示され、
9秒後は19、10秒後は20、11秒後は31が表示されます。
このとき、次の問いに答えなさい。
(1) 73が初めて表示されるのは、スイッチを入れてから何秒後ですか。
「特に男の子の場合、テクニカルに解答したがる傾向があります。
しかしこの問題を最初からテクニカルに解こうとすると、
泥沼にはまるかもしれません」と名塩教諭。
「テクニカルに解く」とは、地道な数え上げをするのではなく、
法則性を見つけて、一気に答えにたどり着こうとすること。
それではいけないというのだ。
この問題を解くための第一の関門は「姿勢」。
「場合の数や数列の問題が出てきたら、いきなりテクニックに走るのではなく、
まずは地道に書き出してみるという姿勢が数学の基本です」と名塩教諭。
数学の教員でもまずは書き出すのだそうだ。
さて、実際に規則通りに、数列を書き出してみる。
11,22,33,44,55,66,77,88,19,20,31,42,53,64,75,86,17,28,39,40,51,62,73,・・・・・
23番目にようやく73が表れる。よって23秒後が答えとわかる。
「この問題は腕力で解く問題です」と名塩教諭は笑う。
腕力とはねばり強さのことである。時間の限られた入試本番で、
落ち着いて、23番目まで書き出すことができるかどうかが、
この問題および(2)以降の結果につながる。
(日経新聞より)
今どきの小学生の多くは「めんどくさがり屋」である。そして同時に、
丁寧な作業ができずに二度手間、三度手間になるようなやり方をする子が多い。
上記の問題に限らず、なにか公式めいたもので解こうとしても、
うまくいかない問題は結構ある。
何個書き出したら答えが出るのかわからないと、書き出す気など起きない。
だから白紙のままというような子や、根拠のない公式でそれらしく計算してしまう子、
あるいはせっかく書き出し始めたのに、途中で書き出し間違えて、
ただ時間だけをロスするような子…がとっても多い。
何年か前のNHKの番組で
某有名私立大学の先生が入試問題について語っていたのだが、
「好景気の時なら天才肌とか変わり者(奇才という意味だと思われる)とかが
重宝される。だからそういう学生だけが解けるような問題も入れようと考える。
だけど不景気になると、変わり者を採る余裕がなくなる。
ギャンブルをやってる場合じゃなくなる。
どれだけ正確に、そして速く解けるかの方が重要になってくる…。」
と、こんなことをおっしゃっていた。
実際、最近は場合の数や規則性といった問題、
場合分けをしたりルールについて考えたり、同時に例外になる場合を除いたり
といった、「めんどくさい」作業を求める問題は少なくない。
大学の先生がおっしゃっていたことは、僕の実感としても正しいように思う。
公式に当てはめただけで答えが出てくれば、
何て便利なんでしょう!となるのかもしれないが、
そんな発想はそれこそ今どきのゲーム脳と揶揄されても仕方ないように思う。
実は自分も学生の頃に「数学は腕力だ。」と言われてきた。
手を動かして動かして、書いて書いて書きまくるようなことが、
間違いなく必要なのだと言える。