藤原新也さんの著書に「出汁巻きの幸福」というエッセイがある。
(『名前のない花』という本の中にあるはず。)
旅館の息子である「私」(作者)が、父の作る出汁巻き卵が好きで、
自分でも作れるようになりたい!と練習を重ね、遂に作れるようになる
という、ただそれだけのお話なのだが、これがなかなか面白い。
面白いといっても、お腹をかかえてゲラゲラ笑うような面白さではない。
子どもが興味を持って「やりたい!」と思ったものに対して、
細かいところにまで、あれこれ口出ししたり、指図したりすることなく、
環境だけ整えて去っていく父の素っ気なさと、時折口にする評価のさりげなさ。
父の、そのそっけなくてさりげない言動に、
物足りなさよりもむしろ、誇らしさに近いものを感じる子ども(私)の様子。
母の、「私」を見守る態度も含めて、
子育て、教育にも繋がるような内容でありながら、全く説教くさくない文体。
よっぽど、今書いているこのブログの方が、説教くさくて恥ずかしい…のだが、
出汁巻き卵を作れるようになった時の、「私」の中での意識の変化は、
出汁巻き卵だけではなく、スポーツにも、音楽にも、もちろん勉強にも
通じるものがあるように思う。