営業の仕事を始めた時、(営業成績の)優秀な先輩のトーク(話術)を
忠実に真似することから始めるように指示された。
同じ職場に、営業成績の優秀な先輩もいれば、そうでない先輩もいた。
それは入ったばかりの新人にも一目でわかってしまうほどで、
ちょっと残酷でもあったが、成績が芳しくない人の中に
とても頭の良さそうな人がいたり、優秀な先輩の中に
「この人が!?」と思うような人がいたりと、
最初はその違いがなかなかわからなかった。
しかし、しばらく経ってくると、段々とその差がわかってきた。
『素直』かどうか『謙虚』かどうかの差である。
頭は良さそうなのに営業成績が上がらない人の多くは、
上司が話をしていても、メモを取りながら聞くとか、
話している人の目を見て聞くとか、そういう姿勢はほぼ皆無で、
基本的に「そんなことは言われなくてもわかっている」という態度でいた。
こういう風にやってくれ!という指示が出ても、
「自分はこう思う」「自分はそうは思わない」という主観ばかりを大事にし、
言われた通りにやってみることがないようだった。
一人前にならないうちに、自分の主張をあまり出し過ぎてもいけないのだろう。
考えることは必要だろうけれど、和食にしてもフレンチにしても、
(シェフの下で)修行する時に、ひよっこのうちから自分を主張したって仕方あるまい。
下手の考え休むに似たりという諺もある。
優秀な先輩のトークを忠実に真似するように!という指示は、
真似するだけであれば簡単そうなのに、
『素直』さと『謙虚』さが足りない人には、この上なく難しい指示だった。
そしてまた、この指示後には興味深い事実がもう1つあった。
それは例えば、優秀な成績のAさんとBさんがいるが、
その2人のトークがそれぞれ違っていたとする時に、よく見られた事実である。
AさんもBさんもどちらも優秀だという理由で、
どちらか1人を忠実に真似するのではなく、
2人のいいところを自分のものにしよう!と、
勝手に2人のトークを混ぜてしまった場合、えてして成績が上がらなかったのである。
少々乱暴なたとえで言うなら、
ダルビッシュとマー君のいいところを両方取り入れよう!としたところで、
2人を超えるピッチャーになれるわけはなくて、
どっちつかずの半端な型が出来上がるのがせいぜいなのである。
AさんにはAさんの意図があり、BさんにはBさんのストーリーがあったはずで、
それを勝手にごちゃ混ぜにした結果、
意図もストーリーもメチャクチャになってしまったのだと思われる。
かみ合わせ、組み合わせの問題もあると思う。
薬だって、1つ1つなら効果のあるものだろうけれど、
飲み合わせによっては効果が出ないどころか、恐ろしい結果になることだってある。
勉強もきっと同じ。
忠実に真似することなく、これはサボっても頭の中ではわかっているからいいと、
式や図を書くのを省略する子の多くは、大概どこかでつまづく。
まだ力の着いていないうちに、敢えてオリジナルな解き方で
自己主張しようとし過ぎる子もたまにいるが、そういう子もえてして(受験では)伸び悩む。
あっちこっちと目移りして、1つのことをじっくり腰を据えてやれないと、
やっている量の割に効果が出ない。
逆に言えば、今もし勉強がそんなに得意でなかったとしても、
『素直』であったとしたら、その子はそれだけで伸びていける理由があると言える。