ふたたび小さな村人の住む村をおそった巨大な生き物は、
1度目とまったく同じコースをたどって家も家畜も作物もすべて食べつくし、
満腹になったその身体を「鼻の」高原にぶつけると、
まるで岩肌に吸い込まれでもしかたのように、
ふたたびすーっとその姿を消してしまいました。
その後、「たつ巻」は何度か(正確には10回)この村をおそい、
「鼻の」高原にぶつかりました。
不思議なことに、なぜか「たつ巻」は、私たちの使用している太陽暦で言いますと
毎月の第二金曜日に決まってやってきました。
さらに不思議なことに、「たつ巻」は12回、つまり丸一年間、
定期郵送物にように村を通り抜けると、
それ以降ぴたりとその姿を見せることはありませんでした…。
巨大な生き物が初めて小さな村をおそってから10年の月日が経ちました。
砂にうもれてしまった小さな村人の住む村はどうなったのでしょう。
実は、この10年で村の生活が一変してしまったのです。
きっかけは「砂」と「穴」でした。
「たつ巻」が東から運んできた「砂」に種をまいてみると、
これまでとは見違えるほど立派で大きな野菜や果物が育ちました。
味も抜群でした。
これまで低木ばかりだった大地には木々が生い茂り、
小さな林が所々に見られるようになりました。
村人たちは家畜を飼うのをやめ、みなが畑仕事に精を出すようになりました。
もう1つの「穴」…なんと「たつ巻」の避難用に掘った穴の1つ
(この村の一番東に位置していました)から「ガス」が垂直に吹き出してきたのです。
村人ははじめ驚き、砂を山のようにかけて「ガス」の穴をふさごうとしましたが
効果はなく、かえって活火山の噴火のように、
砂の山のてっぺんからガスが勢いよく吹き出すようになってしまいました。
「ガス」は西風に乗って、村とは反対方向に流れていったので
村人が困ることはありませんでしたが、
「ガス」の勢いとともに飛び出す黒い油には、うす気味悪さを感じていました。
巨大な生き物の残していった不吉な残がいのような気がしてならなかったのです。
しかたなく村人は黒い油を砂に混ぜて団子をつくり、
ゴミ捨て場で火をつけてみました。
すると、この黒い団子の燃えること燃えること!
村人たちは大いにたまげてしまいましたが、やはり何だかうす気味悪いので、
黒い団子にしては村の外れに捨てることにしました。
これらの小さな村人たちの仕事ぶりを遠くからじっと観察している人物がいました。
彼は小さな村の住民ではありません。つねに2頭立て馬車に乗っていました。
この文章をお読みになっている皆さん、
彼は決してその姿を他の人々に見せることはない謎の人物なのでした。
この物語の中のどこでも彼は一切その姿は見せないはずです。
このことだけは先にお伝えしておきます。
さて、「巨人」村はどうなったのでしょう。
実は、「巨人」村のほうでは深刻な事態がおこっていたのです。
それは、「神聖」なる高原「ララット」に変化があらわれたのです。
これまで、村からあおぎ見る「ララット」の山肌は、一面緑でおおわれていました。
神聖に保つために「ルライ」氏が山肌を管理してきたため、
岩肌がむき出しになっている場所などどこにも見当たりませんでした。
ところが、定期的に12回吹き降りてきた「東風」によって、
「ララット」の頂上付近の緑が失われ、
黒茶色の岩肌がみるみる広がってしまったのです。
一度目の「東風」であれほど右往左往した村人たちです。
「ララット」のあわれな姿に何を想うかもうお分かりのはずです。
絶対的な信頼は、それがあまりにも強すぎると
かえって激しい不信感へと向かってしまうものです。
村人たちのやるせない爆発寸前の感情は、
ついに「ルライ」氏へと向けられました。
「ルライ」氏は、事のなりゆきをすでに予測していました。
村人たちの不満への対処方法を練りに練ってあったのです。
ある日、村人たちがやしきに押しかけて説明を求めました。
すると、「ルライ」氏は軽くせきばらいをし、
落ち着いてゆっくりと第一声を放ちました。
「ついに、時がきたのです。」
本来ならば、ここで終わるべきであろう第3話ですが、
読者の皆さん、あと1つだけ、
小さな村人の村について話をさしはさむ機会をお与え下さい。
それは、小さな村にとって、
そして、この物語にとって中心軸ともなるべき大事件がおきようとしていました。
「たつ巻」が12回村をおそった年に、村の東の外れで8人の子供が誕生しました。
この子供たちが10歳を迎えたとき、この子供たちの身体に異変がおこりました。
なんと、8人全員が100cmをこえてしまったのです。
100cmをこえてしまった以上、彼らははもはや村にはいられません。
「たつ巻」から10年経ったある日、
「おきて」に従い8人の少年少女が小さな村を去っていきました。