私が中学受験をした頃は、過去問対策は今ほどメジャーではなかったように思います。
自分に至っては、志望校の過去問を3年分くらいは解いたかな?程度の記憶しかありません。
以前家庭教師をしていた頃に、
「志望校対策ってバカみたいに高い料金取ってウチの塾でもやってるけど、結局過去問の焼き直しをやっているだけですよね。過去問と同じ問題が出るんですか?似た傾向の問題が出るってことですか?でも、本当に力があればどんな問題が出ても解けますよね?っていうか、似たような傾向の問題しか解けないなら、傾向が変わったらどうするんですか?ちゃんと力をつけさせられてないくせに、そんなことをまた月謝と別にお金取ってやらされているんですよね?」
と、その子が通っている塾への不満を、それはそれは結構な圧力でお父様から言われたことがあります。
普通に塾に通って志望校別の特訓授業も別枠で取って、さらに家庭教師まで頼んでいるわけですから、お父様が不満を言いたい気持ちもわかります。
昔はそのお父様の考え方がおそらく割と一般的で、どんな問題が出ようとも「その場で考えて解く力」があれば問題ない。
勉強とはそういうものだ。むしろ、そうでなければならない。
そう思われていた気がします。
しかし、ある時どこかのだれかが過去問対策を本格的に始めて、そしてこれが大きなビジネスチャンスだと気づいてしまったのではないでしょうか。
志望校対策のお初が、いつどこからかは知りませんが、結果として当たり前のこととなってしまっています。
各私立の先生方も「過去問を解いておいてください。」とおっしゃります。
過去問対策をしないで入試に行けば、その時点で不利な状況になることは、今ではもう否定できません。
過去問対策もせずに受験に挑むのは、相手が剣術か槍術かも知らず道場破りをするような、ちょっと古めかしいイメージになってしまうのです。
「新聞以外で、紙を使った情報伝達手段を1つ取りあげ、それを用いて私たちがどんな特色を持った社会をつくりあげてきたのか、120字以上160字以内で書きなさい。」
(平成18年 麻布中 社会)
この問題の正解は1つでないことが想像できます。
紙媒体の本や雑誌、広告などを題材にして、
筋が通った文章を書けばいいのです。
一見難しい問題にも見えますが、志望校対策をしてきた子であれば、「ふむふむ、今年はこんな感じできたのね。」と、その問題を前にして怯(ひる)むこともなく、「さて何について書こうかな。」と考えられます。
こういった問題には、ある程度の慣れが必要ですから、過去問対策は確実に効果があると言えるでしょう。
入試問題は、各学校の個性が出るものです。
「こういう問題を解ける生徒が来てほしい。
こういう問題について考えられる生徒に来て欲しい。」
と思って作られています。
基本的な問題しか出題しない学校であれば、それは「基本的なことを身につけてから入学してくれれば、後は中学からの6年間で何とかします」というメッセージでしょうから、基本的なことをしっかりと身につけておけばいいのです。
一方、先ほどのような問題を出題する学校には、その学校なりのメッセージがあります。
先ほどの問題は、正解は1つではないと書きました。
むしろ正解が無いのかもしれません。
実際にこの問題で○がついた子はいないようなので、
仮に配点が5点だとして、4点もらえる△がつくか1点しかもらえないか、そういった差で争っているはずです。
麻布の社会では、どれだけ物知りかを問うというより、正解がないような問題、小学校や塾で教わっていない問題に対して、自分なりの意見を筋道立てて考えられるような子、そしてそれを人に文章で伝えられる子を求めているのだろうと思います。
過去問から学校の求めているものを読みとり、それに対して準備させていくという作業は、塾によっての違いが大きく出ます。
大手であれば、○○中学対策講座というものが6年生の秋以降におこなわれます。
大手の良さは、過去問と同じような問題をたくさん揃えている問題量の豊富さもありますが、一番は、同じ学校を志望する人が1つの教室に何十人と集められ、その中で順位を争いながら、切磋琢磨して合格を目指すことであると思います。
皆が同じ方向を向いているからこその一体感は、時として大きなパワーを生みます。
受験の波というものがあるとするなら、それにうまく乗れる子は大手の良さを最大限に生かせる可能性があります。
一方大手の弱いところは、「難関校のための対策講座は充実しているけれど中堅校の対策講座がない」
「第一志望の対策はやってもらえるものの、それ以外は自分で(家で)やらなければいけない」
「過去問の採点は、自分(親御さん)でやると手間がかかって大変」
ということだと思います。
サーパスの志望校対策は、それらを塾が引き受ける形でおこなっていきます。
偏差値がどうであれ、この地域の人があまり受験しないような学校であれ、一人ひとりに対して、マラソンのコーチのように伴走していくイメージです。
大手のように過去問の数字替えの問題が何種類もあるわけではありませんが、過去問の採点や解説はもちろんのこと、今後どういった勉強をしたらいいかとアドバイスをしたり、必要であれば過去問を隣で解いてみせたり、そういったことを積み重ねて、合格までの手助けをしていきます。
余談ですが、この過去問を隣で「解いてみせる」ということが、実は案外力になることをご存知でしょうか。
もちろんこれをアルバイトのような先生にやらせると、「いつも先生が自分で答え出して終わりになっちゃう。」「先生が勝手に解いて、納得してる」
と言われるようなダメな例になってしまうので、実践するのは口で言うほど易しくないのですが…。
とは言え、本当の勉強は、時代がどんなに変わろうとも、(その場で)考える力を養うことだろうと思います。
過去問指導はいわゆるテクニック指導です。
最後の最後での点数の取り方指導です。
受験塾ですから、点数を取れるようにすることが大前提ですが、テクニックで終わって欲しくはないです。
この「その場で考えて解く力」を身につけるために、日々どんなことを積み重ねていけばいいか。
6年生はもちろんのこと、塾通いを始めたばかりの3年生の授業から、その理想を実現するために、工夫を凝らしています。
まだまだ試行錯誤のところも多々ありますが、成果が出始めていることもあり、子どもたちの成長が頼もしく、ワクワクするようなドキドキするようなそんな気持ちを抱いています。