家庭教師を本業としていた時期がある。
期間にして3年くらいだろうか。
何かものすごい肩書やコネを持っているわけでなければ、
家庭教師センターに登録して生徒を紹介してもらうのが普通の働き方である。
自分もそれしか方法はなかった。
その当時、家庭教師という仕事を選んだのには理由があって、
塾ではわからない子どもの家での様子を知ることができたり、
塾ではなかなか話していただけないような
(お母様の)塾への不安や不満を聞くことができたりすると考えたからだ。
実際、この3年間の経験はとても有意義だった。
マンツーマンで生徒を指導した時にどのくらいの成果が出せるのかがわかったし、
(各家庭で違いはあるものの)ご家庭でどんなことに対して悩んでいるかも、
目から鱗なことが多かった。
(それぞれの塾では、きっとこういうつもりで伝えたんだろうなぁと思うことが、
結構な頻度で全く違う風に捉えられていることが多かった。)
マンツーマンの指導では、先生に熱意と教える力があって、
更に生徒との相性が合えば、飛躍的に成績を伸ばすことが可能である。
3つのうちどれかが欠けると、思った程の効果が上がらないから、
そこは先生だけでなく生徒を紹介するセンターの見る目も重要だと思う。
自分の登録していたセンターの代表は、勉強の指導はもちろん、
そういった見る目も的確だった。
その代表は30歳以上の先生は基本的に雇わない。
「30を過ぎた辺りから自分の型にこだわり過ぎて、
融通がきかない人が多いから。」とおっしゃっていた。
例えばA塾で教えた経験が長い先生が家庭教師をやったとする。
その先生が、もしB塾というAとは全く違う塾の生徒を指導することになったら、
その子やそのB塾に合った指導を当然すべきなのに、
ついつい慣れたA塾の指導方法を取ってしまうのだという。
今になって振り返ると耳の痛い話である。
過去うまくいった方法が、
(生徒も時代も違うのだから)今年もうまくいくとは限らないのに、
ついつい昨年と同じ手法を取ってしまうことはある。
平井コーチのたとえ話を引用するなら、
織田信長が桶狭間の戦いで勝ったことを良しとして、
常に奇襲戦法を採用するかと言ったらそうではないでしょう?
ということである。
毎年毎年、生徒の学力だけでなく個性や癖も考えながら、
そしてまた家庭状況も踏まえながら指導するように意識しているが、
あの時お世話になった代表の言葉をたまに思い出しては、
「今の自分は融通のきかない奴になっていないだろうか」と
自問自答を繰り返している。