三苫の1ミリ

サッカーに興味の無い人でも、これだけ話題になっていれば、
映像か画像を目にしたのではないだろうか。

スペイン戦の2ゴール目。
(1点負けているところから)同点に追いついたゴールからわずか3分後。
その数分間、勢いが日本にあったとはいえ、
試合を見ていた僕は、「さすがにこれはラインを割ったでしょ!」
と思っていたが、(VARの結果)ゴールが認められた。

堂安選手の蹴ったボールは、シュートだったのだろう。
だから、あれにギリギリでも追いつく三苫選手の脚力、走力がもちろんすごい。
だが、彼と同じ足の速さを持った別の選手が彼と同じポジションにいたとして、
はたして、あのボールに追いつけただろうか。

素人なら、シュートに合わせて走ろうなんて思いもしないかもしれない。
プロであっても、いやプロだからこそ、追いつけるわけがないと思ったかもしれない。
ゴールポストに当たって跳ね返った時のために、一応ゴール前に詰めておこうとか、
役割上、とりあえずゴール前に走ってみたとか、そういうことはあるかもしれないが、
「一応」とか「とりあえず」程度の意識では、
あのボールには触れもしなかったのではなかろうか。
そう考えると、彼の足の速さはもちろんすごいのだが、
すごいのはむしろ、足の速さではないところだとも言えると思う。

わかりやすく言おうとすると、
「諦めない姿勢」のような表現になるのかもしれないが、
なんとなく、それとも違うように思う。勝手な憶測に過ぎないが、
無理かなぁ…走っても届かないかなぁ…やるだけ無駄かなぁ…なんて考えは、
三苫選手の脳裏を1ミリもよぎっていない気がする。
だから、そもそも諦めないぞ!とも思っていなかったのではないか。
また、VARの審議中、三苫選手本人が「多分(ラインを)出ました。」
と言っていたそうなので、周りが見えていなかったわけでもないと思う。

「執念」ともちょっと違う(気がする)。
ただ、自分のやると決めていたことをやり切ろうとした、
自分のやれることに集中した、
というシンプルな思考と行動の結果だったのでないか。

 

「シンプル」
言葉にすると容易いことに聞こえるが、これが実は難しい。
相手は格上スペイン。東京オリンピックで苦杯をなめた相手だ。
勝てないかもしれない、通用しないかもしれない…
と、不安を感じたり、考えても仕方のないことをあれこれ考えたりして、
シンプルに行動するどころか、出足が鈍くなることだってありえそうだ。

「シンプル」は、簡単そうに見えてとても難しいが、
それができたときには、結果さえもシンプルについてくる。