教えることの難しさ①

家庭教師として、初めて生徒の家を訪問する日、
つまり、保護者の方と子どもと、初めて顔を合わせる日は、
家庭教師にとっても勝負の日である。
その日の印象や指導の仕方で、採用か不採用かが決まる。

例えば、某大手塾で最上位クラスや2番目のクラスにいる子の指導のときは、
(我が子の成績を上げられるかどうかを見極めようとしている)
お母さんの顔は笑っていても目が笑っていないことが多かったし、
そのそばにいる子どもは、緊張しているような、うんざりしているような、
疲れた様子でいることが多かったが、
その対照的な2人を、可能な限り、同時に満足させることが必要になる。

あるいは、もう受験は無理なんじゃないか…と思いつつも、
藁にもすがるような気持ちで家庭教師を依頼してこられたであろうお母さんと、
受験を全く自分事として捉えていないような、あっけらかんとした子どもと…
というような場合もある。

 

そして、この一番難しいところは、様々な御家庭の状況が、
インターホンを押してリビングに通されるまで
全く分からないというところである。

大手の最上位クラスにいるから、イコール学力も高く、ヤル気もある
とは限らず、むしろ、先ほど書いたように、すでに疲れ切っている場合もある。
お母さんと子どもが出てくるかと思ったら、
おじいちゃんやおばあちゃんまでもが(一家総出で)出迎えてくれることもあるし、
家政婦さんだけが出てくる場合もある。
家庭教師をすでに何回も替えているような御家庭もある。

 

塾という場所で、ご新規のお母さんや子どもとお会いするのとは、だいぶ違う。
塾は、我々にとって、いわばホームグラウンドであるが、
家庭教師は、常に完全アウェイでの戦いである。
一目で超お金持ちだとわかる家では、出されたお茶のグラスを手にするのさえ、
細心の注意を払いたくなるし、
顔合わせのときは、いつもきちんとしたスーツ姿で訪問するのだが、
室内犬に絡まれて、帰るときにはスーツが毛だらけということもある。
毎回、出たとこ勝負なのだ。