教室の空気①

高校受験も扱っている塾で教えていた頃の話であるが、
中学3年の秋まで野球を続けていて、受験勉強どころか、
学校の定期テスト勉強すら、ほとんどやってこなかったという子が、
受験まで残りわずか、もう冬休みにもなろうかというタイミングで入塾してきた。
スポーツをやっている子の中にも成績優秀な子はいるが、
この子は、本当に野球一筋でやってきた子のようで、
勉強に関しては中学生のレベルに全く達していなかった。

しかし、彼の素晴らしいところは、
その野球による(高校)推薦入学がすでに決まっていて、勉強をやらなくても
高校には入学できるようだったが、入ってからのことを考えて、
今からやれるだけでも勉強しておきたいという姿勢があることだった。

とはいえ、勉強をちゃんとしたことがないのである。
当然、(勉強に関して)知らないことがたくさんあったから、
受験間近のタイミングで教わること(応用問題・入試問題)は、
ほとんどわからなかったのではないかと思う。
漢字テストや英単語テストの類でも、おぼえるのにとても苦労していた。
だが、こんなことやりたくない!と不満を言ったり、
勉強なんて…と、不遜な行動を取ったりすることなく、
むしろ、自分が野球をやっている間に勉強をしていた同級生たちを
尊敬するような、そういう眼差しで一生懸命に取り組んでいた。

 

ちなみに、暗記物は「おぼえるだけ!」なのだから、
真面目に取り組めば、誰だってできる!と考えている人は大人にも多いが、
その「おぼえるだけ」にも、経験や頭の使い方のコツがいる。
「おぼえよう!」と思ったらおぼえられる人には、そのことがわからない。
暗記のやり方にも、訓練が必要なのである。
だから、彼が漢字テストで苦労しているのは、そのときの努力不足というよりは、
それまでの経験値不足といった方が適切だったように思う。

 

さて、ある日、漢字テストで不合格だった子たちに対して、
間違えた問題の数×10回ずつ、書き取りをして提出するように!
という、いわゆるペナルティを課したことがあった。
何問のテストだったか記憶は定かでないが、100問くらいのテストだったと思う。
その結果、先述の子は、数十問間違えて
数百文字書かなければいけない状況だったのだが、
そのときのやり取りが、とても印象的であった。

「先生!全部10回ずつ書かなきゃダメですか?」
「あぁ、そう言ったけど?」
「その回数、腕立てじゃダメですか?」
「いいけど(笑)、そんな何百回もできんの?」
「やります!」
「じゃぁ、いいよ!ズルすんなよ!」
「ウス!」
と、こんな調子だった。
(結局、途中で腹筋と背筋でもいいか?と聞かれ許可した(笑))