対話で育てる

日本で最もレベルの高い学校の1つに灘中があります。

その灘中の名物先生に橋本武先生という方がいらっしゃいました。

「灘校の東大合格者数を全国一位にした」先生とも言われています。

東大合格者数を全国一位にしたなんて、

さぞかし猛勉強させる授業だったのだろう。

勉強だけの学校、ガリ勉、詰め込み教育…などと言われたそうですが、

実はそれとは正反対の授業でした。

橋本先生の授業は、中学3年間をかけて

中勘助の『銀の匙』一冊を読むというものです。

およそ200ページの本ですが、

「このペースだと(3年間かけても)200ページ、終わらないんじゃないですか」

と聞かれるくらいの授業で、遅い時は2週間で1ページということもあったようです。

ちなみにその時の橋本先生の答えは、

「スピードが大事なんじゃない」

「すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなります。

そういうことを私は教えようと思っていません。

なんでもいい、少しでも興味を持ったことから気持ちを起こしていって、

どんどん自分で掘り下げていってほしい。

…そうやって自分で見つけたことは、君たちの一生の財産になります」でした。

橋本先生の授業は、ただゆっくりじっくり読むというよりも、

その中に出てくる題材を使って生徒と対話することが中心だったといいます。

そしてまた、駄菓子が話の中に登場すれば(授業中に)駄菓子を食べ、

凧が登場すれば、凧を作ってあげてみる…

授業は横道に逸れ放題です。

話を聞いている(実際には僕は読んでいるのですが)限り、

問題を解くような授業ではありません。

今どきの学校や塾でこんな授業をしたら、

2週間とたたずにクレームの電話が鳴りそうです(笑)。

しかし、この授業を中学のうちにおこなったために

東大合格者数が増えたというのは、どうやら正しいような気がします。

もちろん、灘に入れた時点で相当な基礎学力があるはずで、

元々の地頭がずば抜けているだけじゃないかと言う人もいるでしょう。

東大ということに関して言えば、そういうこともあるかもしれませんが、

大学受験に向けての勉強を本格的に始める高校3年生や2年生になる前に、

問題演習よりも、読んで、対話して、実体験を増やすことが

土台を作るということは地頭云々は関係なく、誰にでも言えることだと思います。

中学受験でも同じことが言えるでしょう。

問題演習は6年生や5年生の後半からでよくて、

大切なのはそれまでの読書量や対話量、実体験であるということです。

いえ、もっと言うと、受験だとか○○に合格だとか、そんなことは小さな話です。

抽象的な表現になってしまいますが、

魅力的な人、人間力のある人、あるいはこれからの社会で求められる人というのは、

そういう土台のある人だと思います。

サーパスで宿題にしているものの1つに「音読」があります。

この「音読」を軽んじてやらない子については今回割愛しますが、

やっているんだけども、やり方がよくわからないという子や、

やらせ方がわからないというお母さんには、

この橋本先生の授業は、いいヒントになると思います。

声を出して読む。わからない漢字や言葉は辞書で調べる(または聞く)。

これだけでもやらないよりは、はるかに効果がありますが、

そこにプラスして、その文章をもとに思ったことや考えたことを言い合う。

なんてことが(お母さんもお忙しいとは思いますが)できましたら、

先々に繋がっていく揺るぎない力が備わるのではないかと思います。