築地でお寿司を食べながら思うこと

つい先日、念願の築地市場デビューを果たしました。
幼稚園年長の頃から東京都民ですが、
築地市場に来るのは生まれて初めてのことで心躍ります。

築地市場とは、東京都が管理する中央卸売市場(場内)と
これに隣接する商店街(場外)の総称です。
場内だけで東京ドーム6コ分の広さで、
ここで一日平均3,350トンの魚や野菜などが入荷し、
およそ21億円が取引されています(H17年度)。

今や日本人のみならず、海外からの旅行客の観光地となっている築地は、
訪れたその日もたくさんの人で賑(にぎ)わっていました。
と言っても、私朝が弱いものでセリの時間に着いたわけではございません。
時間はすでにお昼ですから、ここにいる大勢の人も
セリ目当てではなく『食』目当てなのでしょう。
お寿司屋さんの前には長〜い行列ができておりました。

ちなみに築地通(ツウ)の人は、ここでお寿司屋さんには基本行かないそうです。
むしろイタリアンや一見質素な定食屋の方が安くて美味しい!そうです。
ついでに付け加えると、牛丼の吉野家の1号店は築地場内にあります。
自分は「かんの」の海鮮丼と「ル・パン」のパンを食べました。
どちらもとってもおいしかったですよ。

さて、築地に行ったのに築地についての話が食だけで終わるのも
どうかと思いますから、自分の専門ではない話になりますが書いてみようと思います。

今回訪れた築地市場が築地から豊洲に移転するという話が10年ほど前からあるのですが、
あと1,2年で現実化するのではないかと言われています。
移転の理由としては、建物の老朽化、アスベストの問題。
もともと貨物列車が鮮魚を運んで来られるようにと、
市場を楕円形(貨物列車は直角には曲がれない)にしていたが、
輸送形態が貨物列車からほぼトラックに変わったことで、
楕円形に意味がなく、むしろ市場を(トラックが)狭くしている。
といったことが挙げられています。

一方移転反対派は、豊洲の土壌汚染。
商店街の移転に伴う費用の負担の問題。
を主張しているようです。

しかし問題はこれだけではないようです。
まず、土壌汚染で売れない広大な土地(豊洲)を都が引き取ってやり、
将来地上げと再開発でもうかりそうな一等地(銀座にも近い築地)を
手に入れようという思惑が見え隠れしています。

また新しい卸売市場を作り、流通の仕組みを変えようとしている
国の計画を危ぶむ声が出ています。
近年、スーパーや外食産業など仲卸による分荷を必要としない
大口消費者の取引が増加しており、卸売市場を経由せず、
直接生産者と消費者が取引を行う市場外流通も増加しています。

「生産者から直接買っているので仲介手数料が無い分安いんです!」
と言えばわかりやすいでしょうか。

もちろん余計な手数料を取られない方が消費者にはありがたいのですが、
品質評価に応じて価格設定をする、
また、取引される商品が安全な物であるという衛生管理をするのも
仲卸の役目でありますから、
それをすっとばして「直接大量に購入しているから安い!」は、
安易に受け入れられないというわけです。

しかし現実には、かつては厳しかった規制がどんどんと緩和された結果、
大量購入する大手スーパーなどが大手仲卸と結びついて
大量の商品を直接安く買いたたく。
国内の値段が高ければ、海外から買ってくるといったことがおこなわれるようです。
当然漁師さんの生活も苦しいものとなりますし、
またお客さんに良いものを提供したいと思っている個々のお寿司屋さんが、
朝早くから市場へ行って自分の目で確かめてよい材料を仕入れる
といったこともできなくなっていくようです。

ここ数年、郊外に突然量販店ができたり駅前に大きなスーパーが進出したりで
昔ながらの小さな商店街がつぶれているのをご存知でしょうか。
(しかもその商店街がつぶれた後に、その量販店やスーパーも
立ち行かなくなって引き上げていくといったことが続いて問題視されています。)
その地域に住んでいる人からすれば、小さな商店街でもあれば
生活はできたのに…となるわけです。

築地に市場を残せばいいとは思いません。
しかし一体この改革は誰得なのでしょうか。
『食』の安全、多様性といった面で、
そしてもっと言うとこれは食だけの問題に止まらないと思います。
議論をもっとしなくてはならない問題であり、
一人ひとりが関心を持っていかないといけない課題であると思うわけです。