個人塾を立ち上げる理由(この話はフィクションです)

その塾には、一大イベント「合宿」があった。
受験学年と、その1つ下の学年だけが参加可能な合宿。
最終日前夜から最終日の朝にかけては、ほぼ全員が徹夜で勉強する。
これを乗り越えた時に、それまで自分がやってきた勉強など、
おままごとのような、勉強の真似事でしかなかったことに気づく。
そして、それまで自分で感じていた限界が、限界ではなかったことに気づく。
そう!自分をものすごく成長させてくれるのが「合宿」だ。

という大義名分で、参加者を募る。
実際、成長する子はたくさんいるから、あながちウソでもないけれど、
かなり高額な費用を講習費と別にいただくので、家庭の負担は大きい。

翻って塾側からみると、その間の売り上げは、
講習費と合宿費が合わさるので、とんでもない額になる。
そしてそれは、社員のその年のボーナスと、来年度の昇進を左右するイベントとなる。
校舎ごとに参加人数のノルマを課され、毎日、達成率を報告させられる。
ノルマをクリアし、さらにそれを超える参加者を募れた先生は優秀な先生と評価され、
そうではない先生は、利益を生み出せないダメ社員の扱いを受けてしまう。

だから、校舎長からアルバイトに至るまで、全員が必死に「合宿」参加を呼びかける。
呼びかけると言えば、まだ聞こえはいいが、もはや脅しに近い。
帰省や部活、はたまた金銭的な事情があろうが、
「合宿」に参加しないなんてことは、許されないような雰囲気を作り出す。

生徒の学力をどうやったら伸ばせるかなど、考える余裕は無い。
入試問題研究、教材研究もできない。
自分のことで精一杯で、生徒の気持ちを慮るなど、とてもとてもできない。

ようやく「合宿」の募集が終わったら、今度は「志望校対策講座」の参加者募集。
その次は「正月特訓」で、それが終わると「直前講習」。
ずっとノルマがついてまわる。
ノルマからようやく解放された時、その時はもう受験である。

 

受験が終わると、受験学年がゴッソリ抜ける。
新年度の売り上げ戦略会議が始まる。

こんなことをやりたくて、塾の先生になったわけではなかったんだがなぁ…