わかったツモリ

サーパスではない塾で教えていた時のお話。

そこは割と大きな塾で、先生の大半が非常勤の時間講師だった。
非常勤の先生は、何校かの校舎を掛け持ちするのは当たり前で、
他塾と掛け持ちすることさえある。
その中に物腰柔らかな大ベテランの先生がいらっしゃった。

この立場の先生は、基本的に授業だけを担当するが、
授業しか担当していないので、質問を受けることは難しい。
まぁ、大きい塾では、質問を受けること自体、社員であっても
(差が出てしまうので)NGな場合もあるが…。
だから、授業がわからないなどというクレームが来ると、何も対処できない。
最終的にその授業から外されて、食いっぱぐれる可能性がある。

となると、先生はどれだけわかりやすい授業をするかに腐心することになる。
実際、その先生が授業している教室からは、
「わかりましたか?」「わかった!」という声がよく聞こえてきた。
物腰柔らかで、わかりやすい授業をしてくれる大ベテランの先生!
親御さんからしたら、とてもありがたい話である。

ところが、あれだけ「わかった!」と、言っていたのに、
テストになると、なぜかできないのである。

この話について、ちょうどいいコマーシャルがあったので、ご紹介。
『サッポロ生ビール黒ラベル』のCMで、
妻夫木聡さんと『新世紀エヴァンゲリオン』の監督庵野秀明さんとの会話。
妻夫木「分かりやすさは大切ですか?」
庵野「分かりやすいとそこで終わってしまうんですよね。分かっちゃうから。
分からないと、分かりたいっていう風に、その人が動き始めるんですよね。」

わざとでも「わからない!」という状態にさせれば、
聞き手の生徒に、「なぜ?」が生まれる。そして考える。
そう!これがないといけない。
耳障りのいい、わかりやすいだけの授業では、生徒は伸びない。

先の話の場合、先生だけのせいではない。
もし、聞いて「わかった」のなら、
本当にわかったのか、できるようになったのか、
もう一度解いてみる確認作業が必要である。

「わかったつもり」は一番危ない。