偉業の背景にあるもの

今年もノーベル賞の発表が行われ、見事に2部門での受賞となりました。ノーベル賞の受賞という歴史的な大偉業に対して、「今年も取ったか!」と感じてしまうくらい、恒例となりつつある事実に驚くばかりです。改めて、ここ数年での受賞をまとめてみると、以下の通りです。

 

2008年

【物理学賞】「自発的対称性の破れ」南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏

【化学賞】「緑色蛍光タンパク質の発見」下村修氏

2010年

【化学賞】「パラジウム触媒クロスカップリング」根岸英一氏、鈴木章氏

2012年

【医学生理学賞】「iPS細胞の発見」山中伸弥氏

2014年

【物理学賞】「青色発光ダイオードの発明」赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏

2015年

【医学生理学賞】「線虫の寄生による感染症に対する治療法」大村智氏

【物理学賞】「ニュートリノが質量を持つことの証明」梶田隆章氏

 

経済学賞は未だ受賞者なし。文学賞と、平和賞はそれぞれ1994年の大江健三郎氏、1974年の佐藤栄作氏以来出ていないということを考えると、ここ数年の科学分野での受賞ラッシュの凄さが際立ちます。

今回、受賞されたお二人の受賞対象の研究は「数多くの命を救った実績」と「定説とされていた常識をひっくり返す事実の照明」といったものでした。大村氏による研究は、まさに「人類のために多大な貢献をした」という点で我々にも大変わかりやすく、それが億単位の命ともなると、思わず受賞も納得といった研究です。そんな偉大な研究を、「微生物のおかげ」という姿勢で謙遜される姿から、大村氏の人柄も研究成功の1つだったのではないかな、と思わされました。

そして、梶田氏の受賞には、個人的に大きく惹かれるものがありました。
梶田氏の研究は、「どのように人類の役に立つか」といった視点で見てしまうと、とても遠い世界の人のように感じてしまうかもしれません。そもそもニュートリノって何だ?という疑問を持つ人が大半なはずです。

ニュートリノって?

ニュートリノとは、梶田氏の師である小柴昌俊氏らが観測に成功した素粒子で、宇宙の謎を解くヒントになり得る、とされています。一時、光よりも速いものがあると話題になったこともありました。ニュートリノの観測成功により、小柴氏自身も2002年に物理学賞を受賞されています。

ニュートリノには質量がある。

この真実の背景には、いったいどれほどの年月と費用、知恵が尽くされてきたのでしょうか。設備面だけでお話すると、1994年に岐阜県飛騨市神岡町にスーパーカミオカンデという設備が建設されています。ニュースの映像にもよく出ているので目にしている方も多いと思います。高さ41.4m、直径39.3mで、池の山の頂から地下1000mに埋められているそうです。

原子よりも小さな素粒子の観測のために、これだけ大きな設備が必要というのも不思議なものです。設備は物理的な大きさもさることながら、建設費用も104億円という莫大なものになっています。ただ、これ以前にもカミオカンデという設備が作られていたり、ニュートリノを打ち込む施設がつくば市にあったりするので、関連施設も含めると、1つの研究のためにものすごい投資が行われていることがわかります。

しかし、時間や費用をかければ必ず結果が出るものでもないのが研究です。
何もニュートリノの話に限ったことではありません。なぜこのような研究を長年続けられるか、常々疑問に思っていましたが、この要因を梶田氏はこう語っています。

「きちんとやっていけば、何かに結びつくんじゃないかと思ってきちんとやった。自分の進んでいる道が正しいと思って頑張った。」さらに、研究をすすめるきっかけとなったのは「自分の予測と異なる計算結果」だったそうです。そんな些細な違和感から、常識とされていた事実を疑い、世界をひっくり返したのですから、本当に驚くばかりです。梶田氏の受賞に惹かれたのは、「感じ取る力」や「探求心」、「自分を信じる力」。これら、皆が持ち合わせている力が掛け合わさって成し遂げた偉業だったからかもしれません。