とある入試前の夜

とある入試前の夜、この時期は残った講師で食事に行くことが多いのだが、

偶然、バラバラに帰ることになった。

遅い時間であったので、家に食事もないかと思い、

たまには1人、外食で済ますことにした。

何の気もなしに開いていたラーメン屋さんに入り、注文をした。

カウンター席であったが隣は3人で来ているらしい。

しかも同業者であることが話の内容ですぐに分かった。

夜遅い時間なので、こういったケースはけっこうあるものだ。

あまり気にすることなく、注文を待っていた。

とはいえ入試前、聞こえてしまえばつい聞いてしまうもので、

話を聞いていると、この3人は中学受験、高校受験の両方をしている塾の講師のようだ。

そして算数の話なんかもしている。

算数なんて数学も教えてると本当にくだらない。

あんなの方程式で全部解けるのに。

なんていった話が聞こえてくる。

なんて残念な会話だろう。

そしてそういったことを思っている講師に教わる生徒はなんて可哀そうなんだろう。

と隣で思いながら聞いていた。

中学受験の算数にある奥深さは数学とも違う、とても広い世界である。

方程式でなく理論を詰めて解くその世界はのめり込めばのめり込むほどに楽しく、

そして達成感のあるものだ。

公式めいた学問でなく、

いかにすべての単元にあるストーリーを伝えるかが勝負と思っているだけに、

同じ仕事をしているものとして残念であった。

塾という単語で片づけると、どこも塾であり、

そしてそこで働いていればみんな塾講師である。

そこに違いなんてないのかもしれない。

でもそこにどこまでのこだわりやレベルをもっているか、情熱を持っているか。

その違いはすごい差なのだと思う。

しかし、それはテストの点数や偏差値ではすぐには表れないものでもある。

そしてその違いは伝えたくても、意外と伝わりづらいものである。

ちょっとさびしい気持ちになりながら、お店を後にした。