余計な一言

とある日曜日、僕は二子玉川のカフェでちょっと優雅な気分でランチをいただいていた。

そのカフェは、ゆったりとした空間ではあるが、お客さんであふれかえっていて、

お店の外まで行列の続く人気店だった。

すぐ隣のテーブルには、この辺りにはよくいそうな感じの親子4人がいて、

ご両親はビールを飲みながら、子どもたちはジュースを飲みながら、

サラダやポテトなどを楽しそうに食べていた。

ところが突然、そのご両親が店員さんを呼んでキレ始めた。

「一体どれだけ待たせるんだ!」

どうやら注文した品物の何かが届いていないらしい。

「順番にお出ししていますので…」

と謝る店員さん。

しかし、ご両親の怒りは収まらず、

「もういい。帰る。」

「待っても出て来ないんだからお金は(払わなくて)いいよね!」

と、今まで楽しそうに飲んだり食べたりしていた分のお金すら払わず、

最後に「こんな店、二度と来ない!」と吐き捨てるように言って出て行った。

お店の外まで並んでいるような人気店。店内もお客さんでいっぱい。

ある程度時間がかかることくらい想像はつくと思う。

牛丼やハンバーガーのようなファストフード店ならスピードが重要だろうけれど、

食事をしながらおしゃべりしたり本を読んだりして

ゆったり過ごせるのがカフェのいいところ。

この家族はこのカフェに何を求めていたのだろう?

飲み物すら出てきていなかったのならまだわかるけれど、

たくさんのお客さんに「順番にお出しして」いて、

実際この家族のテーブルには飲み物も食べ物もまだ乗っていた。

想像以上に待たされたことで次の予定に支障が出そうなら、

「すみません。もう作り始めていますか?

ちょっとこの後予定があってもう出なくてはいけないので…」

と、途中で帰ったっていいではないか。

どうしても食べていない分のお金を払いたくなかったのなら、

「食べた分の会計だけ…」とお願いしてみたらいい。

ひょっとしたら、最初からお金を払う気がなかったのかもしれない。

仮に店内がすいていて、注文した品物がはやく届いていても、

なにかしらの文句をつけてお金を払わない気でいたのかもしれない。

(今流行りのモンスターカスタマー、モンスタークレーマーってやつか?)

いやいや、お金だけの問題でもないと思う。

この家族が正規のお金をちゃんと支払ったとしても、最後の一言がいらない。

「こんな店、二度と来ない!」

と思うくらいに腹が立ったとしても、心の中に止めておけばいい。

その後行かなければいいだけの話で、楽しんでいる他のお客さんの前で、

わざわざ言う必要がない。

言った本人の中では、

『言ってやったぜ!』『スッキリしたぜ!』感で満足なのかもしれないが、

誰の得にもならない。

「みなさんもこんなところ、来るべきじゃないわよ!」

と、カフェにとってマイナスなことをしてやろうとまで思っていたとしても、

残念ながらその場にいた誰もが

「あなたが来ないでくれるだけでいいわ!」

と思ったに違いない。

最後の一言で、なお一層自分の価値を下げたことに

気づいていないのは、当人だけなのである。