雲の上に行きたい。

突然、何をわけのわからないことを、と思われるだろう。

これは、大学時代の友人からの「どこ行きたい?」

という問いかけに対する僕の答えである。

普通であれば、「温泉」なり、「世界遺産」なり、もっと地に足のついた返答をするものだと思う。

しかし、とっさに思い立った答えは、文頭のそれであった。

というのも、大自然に触れたい、圧倒されたいという思いがあったためである。

具体的な場所は完全に相手任せでいたので、出発前日まで、どこに行くんだろうという期待と不安で過ごしていた。

(企画、運転、という段取りをすべて行っていただいた友人には感謝!)

日曜補習のあと、向かった先は天下の富士山。

まさか、総本山を攻めるとは思いもしなかった。

しかし、「雲の上」という注文に対しては、この上ない答え。

運転はもっぱら友人に任せ、意気揚々と道中を楽しんでいた。

そんな高揚した気分を落ち着かせるかのように、降り続ける小雨だけが気がかりではあったのだが。

自然に圧倒されたい、という希望が思いがけないところで実現した。

闇である。山道は漆黒の闇で包まれ、日頃の街灯りのもたらす安堵感というものを否応にも感じさせられた。

宿に着き、日々の疲れを温泉でいやし、明くる日の天気を祈りつつその日を終えた。

翌朝7時頃。

部屋の障子を開けると、燦々とした日光が

 

 

 

・・・ない。

 

 

空にはどんよりとした白いかたまり。

5合目まで登れる有料道路の通行情報でも営業外の文字。

最悪だ。

とりあえず、朝食をすませ、近くの河口湖へ向かい、天候の回復を待つことに。

すると徐々に雲にも切れ間が!光が!!希望が!!!

そして、お昼頃にはそれまでの天気が嘘のように、

絶好の富士山日和になっていた。

その間に、忍野八海という富士の地下水でできた透明度の高い池を訪れた。

その1つの池は水深5mという深い池なのだが、

透明度の高さからか、池の底が手の届くような深さにしか見えない。

写真も撮ったが、これは肉眼で見たものにしか味わえない体験だったようだ。

そうこうしているうちに、有料道路の情報も

「4合目まで営業」に変わっていた。

5合目までとはいかなかったが、それでも2000m超えという

別世界であることには変わりはない。

「イージュー☆ライダー」をかけながら、気分はまさに旅番組。

少し前まで、天気が悪かったとは思えないような澄み切った青空。

眼下とまではいかなくても、目の前に広がる雲海。

まさに期待していたような圧倒的な自然がそこにはあった。

やはり「本物」は違う。

道中に襲われた闇や、先ほどの忍野八海。

身近にある夜や池とは似て非なるものだった。

本物の持つ力のすごさを体験できたことは、この上ない経験になる。

いかに本物にふれるか、ということは

自分の人生において大きなテーマだなと改めて感じた。

しかし、ここはまだ4合目。まだ上がある。

いつか山頂まで登らなくては行けない、と心に決め富士山をあとにした。