子どもの可能性

私は大学生の頃から (他の塾ですが) 塾の先生をしていました。
その当時教えていたある中学2年生の男の子の話です。

彼の塾内での成績は下から2番目。
1つの校舎ごとに同じ学年の子が100人以上いて、
全部で9校舎ある塾の下から2番目ですから、
ざっと1000番目くらいの順位でした。
得意教科は1つもなく、中学校の中でも成績はかなり下の方だったようです。

その彼に、特に何の気も無しに
「数学はね、本気でやったら1か月でできるようになるよ。」
と夏休み前に言いました。

そうしたら、彼が今まで見せなかった勢いで
「じゃぁ何をやればいい?」
と食いついてきたのです。

彼がどこまでやれるかわかりませんでしたが、
そこから彼の学力を考えながらやるものを指示していきました。
学力を伸ばすには、(その子に)適正な質と適正な量の問題を
やらせる必要があります。

解けるものばかりでもダメですし、かと言って、
なかなか自力で解けないものばかりでもヤル気が起きません。
ぶ厚いテキストを一冊渡してやってくる子なら指導も楽ですが、
それでもただ量をこなすだけで思考力が培われるとは限りません。

また、やらせる順番も重要です。
せっかく彼がヤル気になったのですから、このタイミングを逃したらいけません。
ですからここでの指示は、なかなか繊細なものになります。

彼は夏休みの間中、本当によく勉強していました。
毎日質問に来ましたし、休み時間もずっと数学をやっていました。
他の教科の先生には申しわけなかったのですが、
数学しかやっていませんでした。

他の教科には確実にしわ寄せがいきましたが、
数学の力は着実に上がってきて、
夏期講習の最後のテストでは校舎の中で上から3番、
9月のテストでは全校舎中でも8番になりました。

言葉は悪いですが、周りから「バカ」だと思われていた子が
夏休みに大化けしたので、周りもビックリ!
一目置かれる存在となりました。

数学では常に学年のトップ10に入り、
自信もついたのか英語や国語も少しずつやり始め、
中学3年に上がる頃には3教科でも成績上位者として
名前が載るようになったのです。

今振り返ると、よくそんなにうまくいったな(笑)と思うほど出来過ぎた話ですが、
彼がいたから今の自分があるというのも事実です。
本気で1ヶ月数学をやったくらいで
誰でもかれでもそこまで伸びるとは思っていないですし、
むしろ (まだ先生としての経験が不足していたとは言え)、私は
彼がそこまで伸びると本当は思っていなかったのです。

大人の先入観で子どもの力や可能性を決めつけてはいけない!
レッテルを貼ってはいけない!そう教えてくれたのが彼でした。
彼が伸びた理由はいくつもあるでしょうし、
その一つでも欠けていたらここまでにはならなかったのかもしれませんが、
もし一番の理由を挙げるとしたら、
彼自身ができるようになりたい!と思ったことなのかなと思います。